大津地方裁判所 平成7年(行ウ)7号 判決
原告
甲田花子(仮名)
同
乙田道子(仮名)
右法定代理人親権者母
甲田春子
右原告ら訴訟代理人弁護士
中田政義
同
小田幸児
被告
滋賀県立大津清陵高等学校馬場分校校長 川端博夫
被告
滋賀県
右代表者知事
稲葉稔
右被告ら訴訟代理人弁護士
苅野年彦
同
井川一裕
同
俵正市
同
重宗次郎
同
坂口行洋
同
寺内則雄
同
小川洋一
被告滋賀県指定代理人
田附紀夫
同
森口聖
同
末松史彦
事実及び理由
第四 判断
一 本案前の主張1(処分性の有無)について
前記第二項二(争いのない事実等)の1及び3の事実並びに〔証拠略〕によると、被告校長は、判定会議の審議を踏まえて入学許可予定者を決定し、その後入学辞退や不正受検の発覚等特段の事情が生じない限り、入学許可予定者に対し、入学を許可するものであり、判定会議終了後合格発表前において、入学許可予定者との決定を受けなかった者は、その後に入学許可予定者とされたり、入学許可されたりすることはないことが認められ、また、受検者は、判定会議を経た段階で、入学許可予定者か否かの二者に振り分けられ、結局、入学許可予定者とされるか否かは表裏の関係にあると認められる。
右事実によれば、被告校長主張のように、原告らについて「入学許可予定者とする決定」がない以上、入学許可ないし不許可が問題になる余地がないとか、積極的に「入学不許可予定」あるいは「入学不許可」との決定がなされていないことをもって、取消しの対象たる処分が存しないと解するのは相当でなく、合格発表に先立って、入学許可予定者とされなかった者は、その段階で入学不許可の決定がされたものと認めるのが相当である。
そして、大津清陵高校への入学を希望して受検した原告らは、被告校長によって入学を許可されることにより、同校において教育を受け、同校の教育施設設備を利用し得る地位を与えられることになるところ、被告校長が原告らの入学を不許可とした行為、は、原告らが入学許可によって受け得る右地位を一方的に奪うものであり、かつ、原告らはこれを受忍せざるを得ないのであるから、行政事件訴訟法三条一項にいう「行政庁の処分その他の公権力の行使に当たる行為」に該当するというべきである。
よって、本案前の主張1に関する被告校長の主張は理由がない。
二 本案前の主張2(訴えの利益の存否)について
受検者は判定会議の結果入学許可予定者か否かの二者にのみ振り分けられること、合格発表後、入学辞退や不正受検の発覚等特段の事情がなければ、入学許可予定者は入学式において入学許可されることは、前記一で認定したとおりである。とすれば、本件入学不許可処分が取り消されたならば、原告らは入学許可予定者とされ、右特段の事情が存しない限り入学許可されることになるのであるから、結局、原告らは、本件入学不許可処分取消により、大津清陵高校において教育を受け、同校の教育施設設備を利用し得る地位が与えられることになるというべく、回復される利益があると認めるのが相当である。
よって、本案前の主張2に関する被告校長の主張も理由がない。
三 本案の争点1(本件入学不許可処分の違法性の有無)について
1 平成七年度滋賀県公立高等学校入学者選抜要項および実施要領(〔証拠略〕)によれば、公立高等学校長は、個人調査報告書、学力検査実施教科等の成績を資料として、高等学校教育を受けるに足る者を選抜し、入学許可予定者を決定するとされているところ、それ以上に何ら具体的基準は定められていないのであるから、入学許否の決定に関しては、如何なる選抜方法を用いるかも含めて、当該学校の教育目標、教育方針等を基にした当該学校長の裁量に委ねられているものと解するのが相当であるが、もとより、その選抜方法や入学許否の判断が、憲法をはじめとする法令に反する場合、あるいは、右方法や判断に著しい不合理が認められ、裁量権の逸脱・濫用と評価される場合は、当該学校長のした入学不許可処分が違法となることはいうまでもない。
2 そこで、被告校長が原告らに対してした本件入学不許可処分が違法なものであったかについて検討するに、大津清陵高校における入学者選抜の具体的方法及び合格発表に至る経緯について、証拠(各段末に記載)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。
(一) 大津清陵高校は、学年による教育課程の区分を持たない単位制かつ定時制の高等学校であるところ、その単位制の特色、すなわち、学年及び進級という概念はなく、一定の単位数を取得すれば卒業できるという特色に照らし、入学者選抜に当たっては、学力検査に加え、その入学目的意識や学習意欲を把握するべく、志望動機や将来の進路等に関する質問事項を含む面接検査を併せて実施することとしている(〔証拠略〕)。
(二) 前記第二項二(争いのない事実等)のとおり、入学許否の決定をするに際しては、被告校長のみの意見によるのではなく、判定会議における教職員の意見も踏まえた上で、最終的に被告校長が決定するものとされているところ、判定会議においては、学力検査及び面接検査の結果並びに出身中学校からの調査報告書が資料として配付され、さらに、審議対象となっている受検者の面接担当官が、面接時の所見を補足するなどして、受検者を通番ごとに一人ずつ仮合格者としてもよいかどうかが審議された(〔証拠略〕)。
(三) 平成七年度の判定会議は、平成七年三月二三日夜から開かれ、翌二四日午前〇時半すぎころから、通番順の審議に入ったところ、一巡目の審議で一九名、二巡目の審議で一一名、三巡目の審議で七名、四巡目の審議で三名の合計四〇名の仮合格者が選定され、仮合格者が定員である四〇名に達したことが確認されたのが同日午前三時半ころであった(〔証拠略〕)。
(四) その後、さらに仮合格者を選定したいとの提案があったが、教職員の間から、教職員減員に伴う教育力の低下及び教職員の負担増を危惧する声があがり、判定会議の場は専ら教職員増員を求める発言に終始し、以後、受検者の審議は行われなかった(〔証拠略〕)。
(五) 平成七年度の合格発表は、平成七年三月二四日午後三時とされていたところ、前記(四)のとおり、受検者の審議が行われることのないまま議論が紛糾し、合格発表の時刻が迫ってきたため、同日午後二時一〇分ころ、被告校長は、先に仮合格者として選定されていた四〇名を入学許可予定者とする旨宣言した。すると、突然、教職員の間から、受検者四五名全員を合格にすべきだという意見が出始めたが、同日二時四〇分ころ、被告会長は右四〇名を入学許可予定者とすると繰り返し、判定会議を閉会する旨宣言した。そして、被告校長が福判定会議の場から退出しようとすると、教職員らが、被告校長に対し、待ってほしいと要求し、入り口付近に机等を移動させるなどした(〔証拠略〕)。
(六) 同日午後三時ころ、合格発表業務を担当する勝見栄慈教務主任が、四五名全員合格で貼り出すと言い、右内容の合格発表をした。被告校長は、掲示をはがしに行こうとしたが、教職員らに止められ、判定会議の場に戻り、そこで、四〇名を入学許可予定者とする旨改めて説明した(〔証拠略〕)。同日午後五時ころ、全員合格発表がはがされ、同日午後六時ころも改めて四〇名を入学許可予定者とする内容の合格発表がされた。
3 右認定の各事実によると、平成七年度の判定会議においては、仮合格者が定員四〇名に達するまで、約三時間にわたり、四巡の審議を経ている上、判定会議では、学力検査及び面接検査の結果や出身中学校からの調査報告書といった配付資料のみならず、面接担当官の補足意見等も資料に加えた上で審議され、その結果、四〇名の仮合格者が選定されたものと認められる。
そして、教職員らから、受検者四五名を全員合格にすべきだとの声が挙がったのは、平成七年三月二四日午後二時一〇分ころに被告校長が仮合格者四〇名を入学許可予定者とする旨決定した直後のことであるところ、同日午前三時半ころに四〇名の仮合格者が選定されてから、約一〇時間以上もの間、一切受検者の審議は行われておらず、その間専ら教職員の増員問題に議論が集中していた経過に鑑みるならば、右四五名全員を合格にすべきとの教職員らの声は、決して、判定会議における全体ないし多数意見又は最終意見といえるものではない。
以上の経過からすれば、判定会議においては、十分な検討を経て、四〇名の仮合格者が選定され、被告校長は、判定会議の結果を踏まえた上で、入学許可予定者を決定したものと認められ、その選抜手続に違法はない。
4 次に、原告らの主張する実体的違法があったかについて検討するに、原告らは、原告甲田の入学意欲等の評価は、受検者の同一性を誤った可能性があると主張するが、乙七の1ないし3の記載からすれば、現に原告甲田の面接にあたった面接担当官三名が三名とも、原告甲田の入学意欲に疑問がある旨の意見を付していることは明らかである。〔証拠略〕によれば、判定会議における審議の際は、面接担当官三名の記載した意見が読み上げられ、面接担当官のうち一名が補足して同様の意見を改めて述べたことが認められるから、同一性を誤った可能性は考えられない。
また、原告らは、幼児や老人の世話をする仕事がしたいとの回答をした受検者が積極的評価を受け、入学を許可されたのに、同様の回答をした原告甲田が入学不許可とされたのは不公平であるとも主張するが、文字面上、同じ回答をしても、同じ評価を受けるとは限らないのであって、面接担当官は、原告甲田の面接時の態度、答え方等一切の状況から、同人の入学意欲等に疑問を呈したのであって、右主張は当たらない。
さらに、原告らは、入学意欲等を適切に評価するには不備のある面接の結果を重視することは許されないとも主張するが、大津清陵高校は単位制高等学校であることから、学生が自主的に単位を取得して卒業できるよう入学意欲等を重視し、右を適切に把握できるように面接検査を実施し、面接担当官三名が、他の受検者とも比較しながら評価するという方法を採っているところ、右方法に不備があるとはいえず、学力検査の結果等と併せて考慮することは当然に許されると解するのが相当である。そして、面接の結果、大津清陵高校が求めるような自主的に単位を取得して卒業できる者でないと評価されたならば、相応の学力を備えた受検者に対しても入学を不許可とすることは、被告校長の裁量の範囲内であると認められる。
したがって、面接検査の結果をも考慮した上、原告甲田の入学不許可をしたことは、著しく不合理とはいえず、被告校長に裁量権の濫用・逸脱はない。
5 原告乙田の受検時の様子等については、前記第二項二(争いのない事実等)2のとおりであるところ、被告校長は、障害児であるとの一事を持って、原告乙田の入学を不許可としたものではなく、受検時の原告乙田の状況や教職員の体制等の事情を総合考慮し、原告乙田を大津清陵高校に受け入れ、単位を取得させ、卒業させることはできないとの判断から入学不許可としたものであり、その判断が、著しく不合理とは到底いえず、被告校長に裁量権の濫用・逸脱はない。
6 以上のとおりであって、被告校長が原告らに対してした本件入学不許可処分は、手続的にも、実体的にも適法であると認められる。
よって、本案の争点1に関する原告らの主張はいずれも理由がない。
四 本案の争点2(被告校長の過失の有無)について
1 原告らは、被告校長が、資料を正当に評価し、判定会議の結果を尊重して適切に決定すべき注意義務を怠った旨主張するが、前記三で判断したとおり、原告らを入学許可予定者と決定しなかったことに手続的瑕疵はないと認められるから、被告校長に右注意義務の違反はない。
2 また、原告らは、不正な四五名全員の合格発表を阻止しなかった被告校長の監督義務違反も主張するが、前記三項2(五)及び(六)で認定したとおり、被告校長は四五名全員を入学許可予定者と決定しておらず、教職員らが被告校長の決定に反する行動をとったもので、その際、被告校長は判定会議の場から出ることを止められ、右合格発表を阻止できない状況にあったと認められるから、少なくとも被告校長に右監督義務違反を認めることはできないというべきである。なお、証人勝見及び同徳永は、被告校長は、「四五名全員の合格発表をするとの教職員の声を聞いても、黙ったままであったし、右合格発表を阻止しようと思えばできる状況にあった。」旨証言するが、前記三項2(五)及び(六)認定のとおり、被告校長の退出を止めようとする行為があったこと、合格発表をはがしに行こうとする被告校長を止めてもいること、現にその後合格発表のやり直しがされたことからすれば、当初の合格発表が被告校長の決定に反してなされたものであり、被告校長はこれを阻止しようとしたができなかったと認めるのが相当であり、右認定に反する右証言は信用できない。
よって、本案の争点2に関する原告らの主張はいずれも理由がない。
五 以上によれば、原告らの本件請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鏑木重明 裁判官 末永雅之 武部知子)